陸橋から

   

 

傍観者。

僕にとってその陸橋は、傍観者という言葉だけがしっくりとくる、

独特な別世界でした。

 

陸橋から下を眺める時、

下を行き交う人々の視線は、総じて平面的、2次元的で、

上にいる僕を捉える事はありません。

 

彼らの視線に僕の存在が入る事はほとんどありません。

 

車の屋根や、トラックの荷台、

乗っている人達の人生の一片、

陸橋では、色々な物が、いつもと違う視点で目に入ってきます。

 

でもその中のどこにも、自分の影はありません。

 

僕という存在が一時的に消えてしまった世界。

それが、その陸橋の上の僕が眺めている世界です。

 

それはとても不思議な感覚で、またそこは、とても居心地のいい場所でした。

 

誰にも邪魔される事なく、行き交う人々の人生を、

時にワクワクし、時に悲しんだりしながら、

僕は眺めていました。

 

でも僕は今、その陸橋から、

地に足がつく下界へと降りて、歩いていこうとしているのかもしれません。

 

自分の夢に向かって歩いていくというのは、そんな感覚なのかもしれません。

 

 あまり長く陸橋の上にいすぎると、

下に降りた時の視点の変化についていけません。

 

自分の目線が周りの人達と同じ高さになっている違和感。

自分の視線と他人の視線が交差する違和感。

下に降りてしまった僕は、振り返り、

陸橋の上にいるもう一人の自分を懐かしく見上げます。

 

陸橋の上の自分は、相変わらず傍観者然として、

でもちょっと興味深そうに、こちらを眺めている様に見えました。

僕は思いました。きっとあいつは、ずっと陸橋の上で、

世界を楽しく眺めながら過ごしていくんだろう。

僕は僕で、ふとした時に、あいつの視線を懐かしく思い出しながら、

自分の選んだ道を歩いていくのかもしれない。

 

それはそれで多分悪くない。

そう思いながら僕は、ゆっくりと歩き出していました。

 

僕は、特に彼に手を振る事はありませんでした。

彼も、特に何か言ってくる事もありませんでした。

 

2人の距離は、まるでそれが、一番自然な姿であるかの様に、

今ゆっくりと、離れてゆくのでした。

 


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